目鼻立ちの整った黒髪の女性が形の良い胸をさらけ出してタバコを燻らせていたのだ。私の目は、男の本能からか動かなくなってしまったのだが、視線に気がついたのか、彼女は私の方に目を向けるとニコッと微笑んで奥へと姿を消した。大学は夏休みに入っていたが、女学生が火照った体を朝の風にでも当てて涼んでいたのだろうか。
私は魔法にかけれらたようにしばらく動けなかった。
旧独身男性寮(現学生寮) |
そこは、ベルリンの学生組織が運営する学生寮だが、もとは20世紀の初頭に建設された男性労働者向けの独身寮。付近の住民は、Bullenkloster、直訳すれば「雄牛の修道院」と呼んでいた。「雄牛」とは「独身男性」のこと。筋骨隆々とした男性をイメージすればいいだろう。
当時は、労働者、職人の独身男性は、自分の部屋ではなくベッドを借りて夜にはその寝ぐらに帰るといった生活をしていた。日本で言う簡易宿泊所をイメージすれば良いのだろうか。
そんな独身者にせめて個室を提供しようというプロジェクトが、財政が豊かだったシャルロッテンブルクで起こり、この建物が建てられた。当時の一部屋の面積は6平方メートルで月の家賃は10マルクだったとのこと。自分の個室を持つというのは、当時の労働者には望み得ない贅沢だったそうだが、独身男性労働者の居住環境改善の嚆矢となったとのこと。
建物は70年代には放棄され、改修の後に学生寮になった。建設当時、男性専用で女性の訪問は固く禁じられていた建物に、今では女学生も住んでいる。
この建物の前を通ると、私は必ず彼女の姿を思い浮かべ、その口から紫煙が上った窓のあたりを見上げるのだが、その姿は二度と見ることはない。今では私の記憶も煙のように消えようとしている。
参考リンク:WH Danckelmannstraße
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