ご挨拶

乗り物好きを自任していましたが、このところ徒歩での旅行がマイブームです。

2012年11月2日金曜日

ICEスプリンターでヴィースバーデンへ日帰り出張(3)

 できることならカフェに腰を下ろして一休みし、どこにどんな見所があるのか確認してからもう一度街を回りたいところだが、予定の列車が発車するまでもう一時間とない。それに今日の活動はかなり足に来た。会場はそれほど広くはなかったのだが、ほとんど立ちっぱなし、歩きっぱなしだったのだ。
 得意先のブースに顔を出せば、歓迎はしてくれるが、それは顧客としての歓迎ではないから、席を勧めてくれるわけではない。潜在的な新規顧客に至ってはなおさらだ。さらに会場には、ちょっとしたカフェテリアに椅子が少し備えてあるだけで、私のような訪問者が座れるような場所はほとんどなかったのだ。この疲れは、運動不足のせいばかりではない。

 徒歩で中央駅に戻ってくると時間は、出発まであと30分ばかり。時刻表を見てどんな列車が発着しているのかを確認し、スタンドでコーヒーを飲む。
 ヴィースバーデンはヘッセン州の州都といっても政治・行政上の主邑。産業・経済の中心地はフランクフルト・アム・マイン。フランクフルトは交通の要衝でもあるため、ヴィースバーデンの方は、その点でも日陰の存在だ。同じKopfbahnhofといっても規模が全く違う。それでも一時間に一本くらいはICEが発車しており、朝にはオーストリアの看板列車Rail Jetも一本だが出ている。

 ホームにはSバーンの他、地域の私鉄列車もよく発着する。私鉄と言っても、ドイツでは線路網と列車運行主体が異なる上下分離形式なのでドイツ鉄道と同じ線路を使い、またドイツ鉄道が資本参加していることも多いので、ドイツ鉄道が発見した切符でそのまま乗れることも多い。もちろん乗り換えで初乗り運賃を二度徴収されることもない。



 そろそろ予定の列車の発車時間。ホームに出るとその列車VIA25025が入って来た。この列車は、VIAS GmbHという私鉄による運行。RuhrtalbahnとDSB Deutschlandが株主になっているそうだ。地域交通連盟にも参加していることからDBの切符が通用する。フランクフルトまでの30分あまりの乗車。新しい車両で乗り心地も良い。マイン側の沿岸を走るが葡萄畑も見える。大都市フランクフルトの近郊だが、こんなところでもワインが作られている。




 フランクフルト中央駅でベルリンまでのICEスプリンターに乗り込む。往路と同様に二等車のコンパートメント席。同室は、ビジネス客と思われる男性と女性が一人ずつ。6人の部屋に私を含めて3人だから往路と同様に復路もゆったり。その女性が私の指定席に座るところだったので、そこは私の席ですが交換しましょうか。あなたのお席はどちらですか、と言うと、特に気にしていないからどうぞと言って譲ってくれた。しかしできることなら進行方向を向いて座りたいようだった。彼女は、Bahncard 100を持っていたのでICE通勤をしているようだ。ベルリンまで帰るそうだが、いつもはハンブルクとベルリンの間で利用しているとのこと。ハンブルクのエアバス社にお勤めだそうだ。

 お読みになる方は、Bahncard 100をご存知だろうか。Bahncardは、ドイツ鉄道の割引カードで何種類かあり、私のものはBahncard 25。年会費がいるが、これを使って普通に購入すると25%引きになる。他にBahncard 50というのもありこれは半額になる。そして100というのは100%引き、つまり全線切符。一等が年6690ユーロ、二等が3990ユーロ。例外はあるが、優等列車を含め座席車はほとんどこれで利用できる。鉄道趣味人には夢のようなカード。日本の運賃に比べれば、全線有効で上記の価格なら決して高くはない。

 乗り込んだICEスプリンター(ICE1090)は、18時13分定刻通りの発車。往路と違い、ベルリンまでの間にハノーファー中央駅にも停車する。

 フランクフルトを出発して列車は順調に走行を続ける。私はというとちょっと喉を潤そうかと数両先の食堂車へ足を伸ばした。このICEは、第一世代の編成で食堂車は、厨房/カウンターを挟んでビストロコーナー(軽食堂)とレストランのコーナーに分かれている。ゆっくり夕食というのもいいのだが、一人で夕食というのもわびしいので飲み物だけにした。ビストロのカウンターでビールを注文し受け取ると、ラウンジ風の座席に腰掛け、一日を顧みてビールの苦みを味わう。座席は、割と固めであまり座り心地は良くないが、これは回転率を上げるためだろうか。

ICE食堂車のビストロコーナー、朝撮影


 フランクフルトを出て1時間くらい経っただろうか。ビールを楽しんでいると、急にブレーキがかかった。自動車のように急には止まらないがそれでもかなりの加速度。フルブレーキングではなかっただろうか。厨房の中でガシャーンと食器類の落ちる音。私はビールのグラスを手で押さえた。

 列車は完全に停止。何か事故だろうか。衝撃はなかったので大きな衝突ではないようだが。しばらくして何もなかったように走り出したが、どうしたというのか。ビールを呑み終わり、コンパートメントへ戻りしばらくするとアナウンスが入った。さっきの急停車の説明をするのかと思ったら、どうもそうではない。Lotseの指示でDrehfahrtをすることになったのでよろしく、と言っているようだ。Lotseというのは水先案内(人)や航空管制(官)のことで私は「運航」で使われる言葉だと思っていたが、鉄道のような「運行」でもそういうのか。だとすると運行司令所のことだろう。Drehfahrtというのも素人にはピンと来ない。「回って運行する」ことととれるが何を意味するのか。しかしその謎は直に解けた。

 列車は、カッセル・ヴィルヘルムスヘーエにしばらく信号停車。この駅は今ではカッセルの中心的な駅になっているが、カッセルには中央駅もあり、ヴィルヘルムスヘーエは、新幹線で言えば新カッセルと言ったところか。「新」とは言わずに岐阜羽島なんていうのもあるから命名はこちらの近いか。駅の作りも日本の新幹線駅に似た感じ。しかしここで列車が止まってもスプリンターなのでドアは開かない。その後、動き出したかと思うとまた信号停車。外はもう真っ暗でどこに止まっているのかわからない。同室の女性が化粧室に行き戻ってくると、カッセル中央駅に止まっていると言う。果たして通路に出て外を見ると、その通りの表示が見える。しかしカッセル中央駅は、行き止まり式のKopfbahnhofでICEのルートからは外れているはず。なぜそこに止まっているのかはわからないが、さっきのDrehfahrtの意味はわかった。列車の進行方向が逆になることをそういうのかと納得。ドイツには、今日訪れたヴィースバーデン中央駅をはじめ、フランクフルト・アム・マイン、ライプツィヒ、ミュンヘン、シュトゥットガルトなど大きな駅は、多くが蒸気機関車時代の名残をとどめた行き止まり式の駅なので、Drehfahrtは何度も経験しているはずなのにこれまでこの言葉を意識したことがなかった。

 しばらく停車して列車は出発したが、どうも遅れが出ているようだ。そしてその後、停車予定のハノーファー中央駅は運行司令所の指示で通過することになったというアナウンスが入る。中央駅の代わりにハノーファー・メッセ駅に停まるとのこと。

 ハノーファーの街を通過すると高速線に入ってベルリンへ向かうばかりだが、さっきうっかり降りられなかった乗客のためにヴォルフスブルクにも臨時停車するそうだ。果たしてその通り停車。その後は、順調にベルリンへ向かったが、ベルリンで最初の停車駅になるシュパンダウが近づいたところでまたアナウンス。この列車、ベルリン・ズュードクロイツ終点のはずだが、今日は、ベルリン中央駅に停車した後、東駅まで行ってそこで終点とするとのこと。ということは、ベルリンの南北線を通って中央駅の地下ホームに入るのではなく、東西線を通り、ツォー駅通過、中央駅停車、東駅終点ということになる。私はベルリンの住人なので位置関係がわかるが、初めて訪れた人でズュードクロイツを目的地としている人がいれば気の毒だ。

 列車は、シュパンダウ駅には予定よりも30分あまり遅れて、22時18分に到着。私はREに乗り換え、ツォーで地下鉄U2に乗り換えて帰宅した。いろいろあって疲れたが、鉄道趣味的には楽しい旅だった。

行きに1時間、帰りに30分の遅れが出たので請求すればスプリンター追加料金が払い戻しになる。11月1日、まだ請求の書式を作成していない。(完)

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