ご挨拶

乗り物好きを自任していましたが、このところ徒歩での旅行がマイブームです。

2012年10月6日土曜日

CNLの夜行列車でベルリン-パリを往復(2)

 最後の席が埋まったのはシュパンダウを出てから少したった頃だったろうか。入ってきたのはうら若きお嬢さんで、おじさん4人の中で気の毒だった。女性専用の車室があったかどうか確かではないが、普通にインターネットで予約すると簡易寝台の場合、男女の別は問われない。
 女性が一人で気まずかろうなんてことはお構い無しに、おじさんたちは、夕食に取りかかる。私の夕食はサンドイッチとワインだけの簡単なものなので直ぐに食べ始められるのだが、背の高い中年男性がテーブルを組み立てようと皆に同意と協力を求めている。テーブルは出発のときには取り外されてベッドの下に収納されており、組み立てるにはまず上段のベッドへ通じる梯子をよけ、代わりに窓際の定位置にそのテーブルの留め金をかけ、足を出してセットする。窓際から通路近くまで届く大型のテーブルができあがる。食事するのには十分なスペースがあるが、日本だったらせいぜい折りたたみ式のテーブルを広げるくらいだろうから、この組み立て式は文化の違いを感じさせる。

 テーブルができれば私はサンドイッチとワインをそこに載せて夕食の開始となるが、その背の高い中年男性は、大きなパンの固まりとチーズの固まりを、でんとテーブルの上に並べナイフでペースト状のものをパンに塗り、チーズを切って盛んに食べる。ドイツ人の夕食の始まりとなる。これをせんがためにテーブルの組み立てを主張したのだろう。何を食べようと文句はないのだが、そのチーズがちょっと臭うのと、大量の食糧をテーブルに広げられる圧迫感とで同室の者は閉口しているが、本人はお構い無し。こういうところでは無神経が勝ちというわけだ。

大型のテーブル

 車室はベッドの他に座り位置も一応指定されているので、それに従って私は窓際に陣取った。そのためテーブルがセットされて皆が食事をする間は外に出られなかったが、他の車室はどうしているのだろうか。グループや家族で一室を占拠できれば、中段のベッドを下ろして背もたれにし、座って食事をとることもできるが、そうではないと中段のベッドに頭がつかえてまともに座ることができない。となるとあとは寝転がって夕食を採るか、さっさと寝ることくらいしかすることはない。テーブルはどの部屋でも取り外されていて、梯子とベッドがセットされていたが、それはここに理由があるのだろう。
 夏の日が長い時期ならゆっくりと黄昏れる景色を眺め、食事をとり同室の人と話でもしてゆっくりと過ごすのが列車の旅の楽しみかもしれないが、スピードアップと合理化はここにも容赦なく押し寄せてきている。寝台車、ことに簡易寝台は横になって休むものと皆が理解すれば、夕食は乗車前にとり、乗車したら寝てしまい、目が覚めればもう目的地でさっさと降りて行くのが一番合理的だ。しかしそうなれば列車の旅はますます廃れて行くに違いない。

 食事が終わりしばらくすると、列車はヴォルフスブルクを通過。ここはフォルクスワーゲンの企業城下町で、運河の向こうに工場やAutostadtと呼ばれる展示施設が見える。私の隣りに陣取った小太りの男性は、盛んに時計を気にしている。もうそろそろ次の停車駅であるハノーファーではないかという。確かにその通りなのだが、彼が期待したほどには直ぐではない。彼はベルリンを出てからICEの所要時間でハノーファー到着を期待している。この国際夜行急行列車もシュパンダウからの高速線ではかなりのスピードを出しているようだが、やはりICEほどには速くはない。
 小太りの男が、ハノーファー到着を待ちこがれているのは、タバコを吸いたいがため。列車には喫煙スペースは用意されていない。

 彼が待ちに待ったハノーファー到着は、22時頃だったろうか。ここまでは列車の運行に遅れはない。列車が駅に到着すると彼は待ちかねたようにホームに降り、ニコチン補給を開始。私も外の空気を吸うことにした。
 まだ深夜ではないが、ハノーファー中央駅のホームは人もまばらだった。我々のCNLは、この駅でハンブルクから来る併結列車の到着を待つ。ホームには、車掌も降りてタバコを吹かしているので、我々の列車はいつ発車するのかと訊いたが、それは難しい質問だといってはっきりとは答えてくれなかった。ハンブルクからの列車の到着、それに入れ替え連結作業の進捗次第ということか。

 我々の列車からは、既に機関車が切り離されている。しばらくすると入れ替え用のディーゼル機関車が近づいてきた。

構内用ディーゼル機関車

 どこに入ったのか確認できなかったが、もうハンブルクからの併結編成がどこかに入線したようだ。
 この後、ほどなくして連結作業が行われ、長くなった編成がハノーファー中央駅を出発した。進行方向がベルリンからのものと逆になった。(つづく)

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