ご挨拶

乗り物好きを自任していましたが、このところ徒歩での旅行がマイブームです。

2012年10月9日火曜日

CNLの夜行列車でベルリン-パリを往復(4)

 我が4人用車室の5人目のゲストは、どうもあの高い位置に固定された中段のベッドに潜り込んだらしい。暗い中で、スマートフォンを使っているらしく青白い光で姿が照らされている。顔の表情に幼さの残るお嬢さんのようだ。
 泥棒ではないらしい。では何だ。私が次に考えたのは、座席車の乗客が開いているバースを見つけてちゃっかり入ってきたのではないか、ということ。
 こういう場合、どうすべきか。ここは4人部屋ですよ、と言って出て行ってもらう? しかし別に邪魔になっているわけではないのだからそれも酷か。知らないふりをしているのがいいかと思ったが、どうもそのお嬢さん、掛ける毛布もなくただ寝台に横になっているようだ。
 寝静まった(鼾男に「静まった」という表現は不適切か)車室で、女の子に小声で「毛布はないの?」と訊いてみると「要らないの」という返事が来たので、いよいよちゃっかり者の闖入者かと確信したが、それでも気の毒なのでよけてあった毛布を渡した。この車室は4人部屋だが、6人部屋の2バースを使わないというだけなので、毛布や枕、シーツは6人分あったのだ。
 しかしあの狭いスペースによく潜り込めたものだ。

 鼾男から出る轟音は列車の振動以上の破壊力があるが、それでも明け方が近くなると少しは静まってきて私も一眠りはできたようだ。ちなみに鼾に次いで破壊力のある列車の振動もかなりのもの。夜間もかなりのスピードで走っているのか、音と振動は激しい。そしてこの車両のサスペンションは、空気ばねではないのだろう。振動がかたい。それに加えて、ヨーロッパの線路は、軌道の幅が広いせいなのかカントがあまりついていないようだ。列車がカーブにさしかかると頭の方向へ、あるいは足の方向にGを感じる。

 明け方、どこかの駅でしばらく停車していたようだ。よく覚えていないところを見ると鼾と振動に酔って眠っていたのだろう。目が覚めたとき、夜が明けて列車はどこかに止まっていた。車室が騒々しいので、目を開けて上体を起こしてみると、鼾男が列車が遅れていると騒いでいる。カーテンのすき間から外をのぞくと、列車はもう国境を越えてフランスの最初の停車駅メッスに来ているのがわかった。
 鼾男が騒いでいたのは、パリでの乗り継ぎを心配してのことだろう。早々に着替えて荷物をまとめていたから、この駅からTGVに振り替えてもらえるとでも思ったのだろうか。しかしそうはならなかった。
 列車は既に1時間以上の遅れが出ている。車内アナウンスによると夜のうちに急患が出てカイザースラウテルンに停車したのが遅れの原因とのこと。
 それにしても鼾男は、寝ても起きても騒々しい。すっかり目が覚めてしまったので、私も起き出すことにした。服を着てホームに降りてみると、駅の雰囲気がどことなくドイツのものと違う。隣の線路をドイツでは見ないローカル列車が走って通り過ぎた。ホームでは小太りがタバコを吹かしている。私によく眠れたかと訊くので、あの男の鼾のせいであまり眠れなかったと答えた。彼もその鼾のせいでよく眠れなかったそうだが、私は彼も鼾をかいていたのを知っている。騒音とまではいかないが、ズズズと振動するタイプの鼾だった。(つづく)

メッスに停車中。時刻表によれば、本来の発車6時15分。

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